軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会

The association demanding investigationon human bones discovered from the site of the Army Medical College

『究明する会ニュース』153号・要約

発掘調査に向け財務省と交渉

根岸 恵子

 2011年12月26日、文京区湯島地方合同庁舎において、若松住宅発掘調査について財務省と人骨の会が話し合う。関東財務局管財第一部第三統括国有財産管理官・木村浩三統括国有財産管理官、山上一夫上席国有財産管理官、東京財務事務所第七統括国有財産管理官・池野義一主任国有財産管理官と、人骨の会からは、常石、川村、鳥居、奈須、石川、平野、根岸。

財務省から「若松住宅発掘調査業務について」の説明

  1. 目的
  2. 3. 4. 省略
  3. 業務期間
  4. 調査概要
    • 1) 2) 3) 省略
    • 4) 調査に当たっては、埋蔵文化財等の地質を見極められる調査員を常時1名配置
    • 5) 人骨が出土した場合は作業を中止し、法令等で定める所要の手続きに従い適正に処理する
    • 6) 調査期間中に現地説明会を実施
  5. 1月4日から家屋調査に入り、20日にフェンス囲い、26日に遊具の撤去、2月3日から試掘、9日から本調査(予定)

 東京都、新宿区と事前に打ち合わせ、埋蔵文化財に手をつけないようにしながら調査を行う。もし埋蔵文化財が出てくれば東京都が調査する。外から見えるようにし、試掘調査は4ヶ所、期間中は定点カメラを2台設置し調査をすべて記録する。発掘されたものは仮設のハウスに一時保管する。
 今回の話し合いに際し川村さんは、過去の経験から牛込署は事件性の調査しかしないので骨が発見された場合、財務省が独自に身元調査をできないか質問した。財務省は牛込署に二度会っている。「人骨が出てきた時点で工事は止まる。それからのことはまだ」とのこと。89年人骨における厚労省の前例を踏襲してほしいとの要望には、財務省は「土地の管理者である。昭和33年に厚生省から所管替えをした。人骨が出てきたときは、法令に基づき届出等を出して対応したい。最終的には新宿区へ渡す」とした。常石、鳥居、平野はそれぞれの立場から、人骨の病変、軟部(筋肉や脳など)、ラベル、プレパラートなど、周辺情報や身元確認に必要な情報の調査とそれらをきちっと残すような発掘を要望したが、財務省は発掘に際しては細心の注意が払われるだろうが、警察に委ねると繰り返した。

配布資料

新聞記事
東京新聞: 3ヵ所目発掘へ 2011年12月13日(火)
朝日新聞:731部隊 究明なるか 2011年12月14日(水)

人骨発見22周年集会報告(その3)
群馬県埋蔵文化財調査事業団主任専門員
菊池実さん講演録

 調査現場の見学は5月30日。すでに調査は最終段階で、陸軍軍医学校時代の地表面や遺構の検出状況は確認できなかった。第一試掘坑の地下1メートルあたりから建物のコンクリート基礎が検出。国民食器・陸軍食器も3月9日に多量に出土し、早い段階で当時の地表面が検出されていた。この段階で見学会をすべきだった。

  1. 国民食器とは

     この写真は岐阜県陶磁資料館所蔵の国民食器。2007年に調査を行った。陶磁資料館は約200点の国民食器を所蔵。国内では二番目に多い。
     日中戦争の拡大で物資は不足、政府は物価の高騰を抑えるため、1939(昭和14)年に「価格等統制令」を公布。1941(昭和16)年2月以降生産品を「公定価格」に即応させるため、碗、丼などの分類基準を設け統制を開始。直後に「標示記号」が作成され、「裏印番号」が付けられた。「裏印番号」というのは茶碗などの高台の中の番号。
     陸軍食器は、基本的には国民食器に含まれるが、金属代用品で、消費地でも一般家庭には流通しない。

  2. 民需用と軍需用の国民食器

     国民食器は民需用と軍需用とに別れる。この写真は国内最大規模の岐阜県瑞浪陶磁資料館所蔵のもの。写真左側が民需用。右側写真中の左側は海軍食器、錨のマーク付き。右側が陸軍食器。

  3. 国民食器の特徴と生産者別標示記号

     敗戦とともに消滅するので、限定品。一般家庭では低廉な陶磁器として普及する。口縁直下に緑色の二本線に、軍需工場、病院、民間会社等の社章や徽章を表出した特注品もある。国民食器は、民需から軍需へと即時転用可能な製品として作られた。ほかに防衛食器というのが缶詰の代用品として考案された。
     高台内の「裏印番号」に岐阜の「岐」が付くと「岐阜県陶磁器工業組合連合会」傘下の組合員の生産品。そして、西南部の会員が291あるので、「岐1」から「岐291」まで付く。近隣の生産地も「岐」に番号が付く。この裏印番号を確認する事で生産地と生産者の名前が判明する。このほか陶磁器の生産地として、瀬戸、常滑、相馬、肥前、波佐見、有田、萬古などがあり、それぞれに裏印番号が付けられているが、研究は進んでいない。

  4. 戸山5号宿舎跡出土の陸軍食器と廃棄時期の問題

     6号トレンチ東側ごみ穴から出土した国民食器には陸軍徽章の☆印が、B区から出土した遺物には☆印の中に「醫校」と書かれているものがあった。国民食器は使用時期・使用者が特定される。軍医学校で使用されたものが戦後早い段階で一括廃棄された。これは人骨標本と同じかその前後に廃棄されている可能性が高い。
     以前の調査では名古屋市見晴台考古資料館が調査した遺跡や、名古屋城三の丸遺跡の発掘現場からも陸軍食器の出土があった。

  5. 筆者所蔵の陸軍食器

     今日は陸軍食器の実物を持ってきた。高台の内側に裏印番号が付けられている。「肥28」(肥前)、「有」(有田)、「岐364」など、☆印も付いている。これは陸軍岩鼻火薬製造所で使用されていた丼、火工廠のマークが付いている。高台の裏印番号は「岐1070」。こちらは陸軍岩鼻火薬製造所の病院で使用されていた汁碗、赤十字のマークが付いている。次に国民食器で一般の家庭で使用された小皿。日本陶磁器組合連合会のシールで公定価格の値段が印刷されている。

  6. 戦没者遺骨の問題

     次に人骨について。現場は湧水のために発掘は大変だったろうが、こうした所でも人骨は比較的残る。逆に乾燥した所でも残る。戦争に関わる人骨は日本国内で見つかる。
    沖縄県那覇市真嘉比の戦没者遺骨。狭い蛸壺壕の中で、座るような状態で見つかった。薬きょうや小銃の実包、地下足袋の底、鉄かぶとも一緒にあった。こちらは沖縄県西原町で見つかった陣地壕内の人骨4体。こういった遺骨が国内にはまだ残されている。

  7. 今後の調査研究に向けて

     国民食器、陸軍食器の廃棄は、戦後の比較的早い時期。調査報告書にはこれらの遺物実測図や写真の掲載をお願いしたい。
     次に遺構について、これからの研究を考えたい。第一試掘坑の地下1メートルあたりから建物のコンクリート基礎が検出された。軍医学校時代から現在までの建物の変遷を追うべき。この場合、第一は文献調査。防衛研究所図書館所蔵の「陸軍省大日記」のなかに「乙輯第二類」がある。その中に比較的軍の建造物関係の資料があり、図面もある。それから陸軍撮影の空中写真と米軍撮影の偵察写真などがある。地図の調査でもかなりの変遷が追える。明治から昭和戦前までの旧版地形図で軍事施設の変遷を追うことも必要。ただし、いずれも1940(昭和15)年以降は軍事施設そのものは地形図から消える。

     私の調査事例を紹介したい。陸軍岩鼻火薬製造所調査の過程で日本陸軍が1940(昭和15)年と42年に撮影した空中写真があることがわかった。左側の写真は1940年2月16日撮影。製造所は現在の群馬県高崎市にあった。火薬製造所の跡地は現在、県立群馬の森公園、日本化薬株式会社敷地、日本原子力研究所敷地に三分割される。私の家に近接しているので早い段階から興味を持って調べていた。こちらが1942(昭和17)年3月23日に陸軍が撮影したもの。二つの写真を比べると軍事施設拡張の変遷をおさえることができる。

     これは米軍の第三写真偵察戦隊の報告書。米国戦略爆撃調査資料のマイクロフィルムは国会図書館憲政資料室に一部あるが、この資料を調べるにはアメリカ・アラバマ州のマックスウェル空軍基地の資料室に行く必要がある。第三写真偵察戦隊は、1944(昭和19)年11月以降、単機のB29による日本国内の偵察写真を盛んに撮影した。1945年2月12日の作戦報告書は、サイパンから飛び立って伊豆半島上空から侵入、二日前に空襲した群馬県中島飛行機太田製作所の戦果を撮影して銚子沖へ離脱。この時、陸軍岩鼻火薬製造所の撮影も行った。米軍はその後、各施設の特定を試み、私の調査ではほぼ50%の確率で特定できている。

「人体の不思議展」開催中止を求めて
――運動の中間報告

 宗川吉汪(生命生物人間研究事務所 主宰)
 日本科学者会議京都支部の『支部 ニュース』2012年1月号から抜粋・掲載

2012年 お花見ウォーク
「もう一つの新宿 日本の戦争加害と共生を考えるフィールドワーク・ガイド」の道を辿る

4月1日(日)午後12時45分集合 13時出発
JR新大久保駅改札口 参加費500円

復活! 連続フィールドワーク
第一回はお花見ウォーク
―連続五回を予定―

第一回 4月1日(日)
お花見ウォーク~パンフレットの道を歩く~(新大久保駅)
第二回 6月10日(日)
陸軍の創設と軍陣医学の系譜(飯田橋駅)
第三回 9月23日(日)
陸軍大本営と市ヶ谷監獄(市ヶ谷駅)
第四回 11月25日(日)
戦争と東京大学(湯島駅)
第五回 2013年2月24日(日)
江戸から明治へ~坂の上の雲の果て~(上野駅)

2012.1.22

定期購読者募集のご案内

年間4~6回発行している『究明する会ニュース』の定期購読をお願いしています。お申し込み詳細は【定期購読者募集】のページをご覧ください。
inserted by FC2 system