人権救済の申立

中華人民共和国ハルピン市(以下省略)

申立人 敬蘭芝

中華人民共和国長春(以下省略)

申立人 張可達

中華人民共和国錦州市(以下省略)

申立人 張可偉

申立人代理人弁護士 森川金寿

申立人代理人弁護士 森川文人

申立人代理人弁護士 南典男

 

申立の理由

一 1989年7月22日、東京都新宿区戸山−所在の厚生省国立予防衛生研究所建設用地から、身元不明の三五体分の人骨が発見された。これらの人骨は、頭蓋骨と大腿骨を主としており、そのほかの部位の骨、たとえば骨盤などが発見されないことから、いわゆる埋蔵文化財とは考えにくく、また戦災など大量事故の犠牲者のものとも考えられない。また、軍医学校付属病院の患者のものであれば、身元不明ということはありえず、発見現場の位置からもその可能性はほとんどない。さらに、警視庁科学捜査研究所の結論によると、人骨は通常の刑事犯罪捜査の対象となるものではない。

 ところで、人骨の発見された国立予防衛生研究所建設用地は、旧陸軍軍医学校があったところで、校内には、石井四郎軍医中将が主管した「防疫研究室」も併設されていた。石井四郎は、この防疫研究室を作って間もなく、中国のハルピン市に関東軍防疫給水部を設立した。この防疫給水部は、第731部隊が担っており、実質的には、細菌研究を進めた。その際、数千人の中国人その他外国人を細菌の人体実験に使い、殺りくした疑いが極めて強い。

 以上の点からすれば、第731部隊と国立予防衛生研究所建設用地から発見された人骨との間には、何らかの関連性があると見るのが合理的判断であろう。すなわち、第731部隊が一部の人体の標本を東京の防疫研究室に運んだということ、第731部隊が補らえた者を東京に運び人体実験に使ったなどの可能性である(「夫を、父を、同胞を返せ!!」32ページ〜57ページ、70ペーシ〜73ページなど参照)。

二 1 申立人敬蘭芝は、1939年、朱之盈と結婚した。

 ところが、夫である朱之盈は、張維福(仮名張文善)の指導を受け情報活動をしていたところ、1941年、黒竜江省牡丹江で日本軍の憲兵隊に逮捕された。その後、「特別輸送」でハルピンの第731部隊に送られ、細薗実験に使われ、殺された可能性が高い。

 また、叔父である敬恩瑞も第731部隊に送られ、殺された可能性が高い。

2 張維福(仮名張文善)は、申立人張可達及び同張可偉の父親であるが、1941年、牡丹江で憲兵隊に逮捕され、長春に移送された。その後、ハルピンの第731部隊に送られ、細菌実験に使われ、殺された可能性が強い。

(以上1、2の点につき、「夫を、父を、同胞を帰せ!!」9ページ〜27ページ、70ページ〜73ページ参照。)

三 以上の点からすれば、申立人3名の遺族の人骨が、国立予防衛生研究所建設用地で発見された人骨の中に含まれている可能性を否定することはできない。ところが、国立予防衛生研究所を管哩する厚生省は、人骨の身元調査確認の要請を再三にわたり拒否し、いまだ人骨の身元調査を行っていない状況にある。それどころか、早く人骨を焼却するように求める動きすらあったようである。現在のところ、新宿区が人類学者に鑑定(骨の人種、性、年齢等)を求めているに過ぎない。

 したがって、現状では、申立人3名の遺族の人骨の引き渡しを求める権利が著しく踏みにじられた状態にある。人骨の保管を維持するとともに、厚生省を始め関係各機関が一刻も早く本格的な調査を始めることを強く求めたい。そこで、日本弁護士連合会人権擁護委員会に対し、人権救済の申し立てを行うものである。

 

添付資料

「日本医学アカデミズムと七三一部隊」

「夫を、父を、同胞を返せ!!」

−「究明する会ニュース」No1〜4

−国立子防衛生研究所建設用地地図

−委任状二通及び各翻訳書

 

一九九一年九月九日

貴日本弁護士連合会人権擁護委員会御中


新宿区への勧告 日本政府への勧告 調査報告書

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