遺骨発掘調査の可能性と実際(講演記録)

1999年7月4日 99年第2回度人骨問題研究会
群馬県埋蔵文化財調査事業団主幹兼専門員・戦跡考古学研究会代表 菊池実さん

戦争遺跡の研究と保存運動
 最近は明治以降の近現代も考古学の研究の対象となりつつある。戦争遺跡の研究は1980年代の教科書問題をきっかけにして沖縄から始まり、二年前に戦争遺跡保存全国ネットワークが結成された。戦跡考古学の調査対象地域はアジア・太平洋地域に及ぶ。
発掘調査と整理作業
 調査の目的・調査計画・調査体制・調査方法・整理作業・成果の公表について(内容省略)発掘調査のほとんどは開発事前調査などの緊急調査。保存目的や学術研究のための発掘調査は約5%。

発掘に伴う手続き
省略

文化財保護行政の転換(一)
〜出土品の取扱いについて

 九七年八月「出土品の取扱いについて(通知)」が、文化庁から各自治体教育委員会に出された。考古学全般の学問の基盤を揺るがすような通知で、非常に大きな問題。
 年間日本全国で発掘される遺跡は膨大で、各地方自治体も出土遺物の収蔵に頭を痛めている。そこで文化庁は、出土品については一定の基準に基づき、保存を要すものとそれ以外のものを区分すること。その基準は、各都道府県教育委員会で定めることとした。

文化財保護行政の転換(二)
〜埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化等について

 昨年九月の「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化等について」という文化庁の通知では、埋蔵文化財として扱うべき遺跡の範囲も各教育委員会で一定の基準を定めることとしながら、近世以降については発掘調査しなくていいといっている。

各自治体の対応と考古学協会の見解
 日本考古学協会から、埋蔵文化財の範囲は「時間的にも空間的にも限定することは困難。」「全国に及ぶ画一的な基準設定は、地域研究を根幹にもつ考古学という学問の特質と矛盾する」という見解が出された。

遺骨発掘調査について
 今の状況では調査は難しいが、新宿区が土地を購入して工事をする場合、周知の遺跡なら事前に文化財調査をやるが、その時に近代の遺跡(軍医学校跡)については調査をしないという状況になりつつあるので、学術調査の発掘届を出すということも一案。学術調査の発掘届は拒めないだろう。ただし、新宿区と事前協議が必要。

最近の事例〜出土人骨群をめぐって
 1998年10月、金沢でトンネル工事現場から、江戸末期から明治初期のものと見られる40体の土葬人骨が発見。今年の5月10日に金沢工事事務所は、教育委員会の調査結果と人骨鑑定結果を踏まえ、この人骨を埋蔵文化財とみなさず、法律に従って火葬にする方針を発表。それについて研究者等から反発があり、日本人類学会などが動いて国立科学博物館に保管される見通し。

高崎市の発掘調査
 高崎市教育委員会が、市庁舎建設に伴い、高崎歩兵隊一五連隊の発掘調査をした。点々と地下壕が出てきて、そこに鉄兜や認識票、いろいろな軍装品、焼け残りの公文書が多量に出てきている。
大本営があった市ヶ谷台でも目黒区の大橋遺跡でも公文書がいっぱい出てきた。だから、軍医学校の調査も、単に人骨だけの問題では調査に成り得ない。高崎市の調査例は非常に参考になる。


    

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