東京地裁判決にあたっての声明

 私たちは、1989年7月に新宿区戸山町の旧陸軍軍医学校跡地で発見された人骨は、焼却されるべき人骨ではないことを、今まで再三にわたって訴えてきた。その理由は、この人骨が「戦時中の医学犯罪の物的証拠」であり、それを焼却することは、戦時犯罪の証拠湮滅にあたり、捕虜条約やジュネーブ条約などいわゆる戦時国際法に違反する行為であるからである。
 私たちが、この人骨を「戦時中の医学犯罪の物的証拠」と認定するにはいくつかの根拠がある。
 第一には、新宿区が「火葬又は埋葬を中止しなければならない明白な理由は見当たらなかった」(福祉部の説明)と、焼却予算計上の根拠にしている「佐倉鑑定」である。
 鑑定の「第9章要約」で、鑑定者は個体数は少なくとも62体以上あり、集団的属性として日本人以外のアジア人種が含まれていることなどを明らかにした。
 この鑑定結果は、「人骨」が戦時医学犯罪の被害者のものであることを示していると考えるのが自然であろう。
 さらに、私たち市民が中国と共同して全国を巡回展示している七三一部隊展をきっかけとして、元部隊員による軍医学校に関連する新たな証言が生まれてきている。
 例えば「防疫研究室の屋上に15個ほどの水ガメがあり、中にはホルマリン漬けの首が3〜4個ずつ入っていた。同じ水ガメを広東で見た」「中国から運ばれた”マルタ”が入った木箱が、テントで囲んでおいてあった」「屋上には胴体や手足などの入ったドラム缶と首の入った中国製の水ガメ各10個があった」などである。これらの証言は文献的裏付けのあるもの、中国側の証言に一致するものもあり、かなり精度が高いものであるといえる。
 これらの証拠から、この人骨が「戦時医学犯罪の物的証拠」であることは明らかである。
 この問題は、今年4月29日に行われた国連人権委員会、差別禁止・少数者保護小委員会現代奴隷制部会、第19会期第5議題「日本により強制された奴隷労働」として取り上げられている。
 もはや新宿区、日本国政府は、国際世論の前から逃げることはできない。現在行われている厚生省の調査が、私たちの調査水準を下回ることは到底あり得ないと信じるが、その調査結果がどのようなものであれ、人骨そのものは、私たちが戦争犯罪と真摯に向き合い、二度と同じ過ちを繰り返さない決意を表す意味でも、保存・保管し、身元が明らかになるまで徹底的に調査し、遺族にお返しすべきであり、これを焼却・埋葬することは断じて許されない。

軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会
代表 常石 敬一


1994年12月5日

衆議院議員各位
参議院議員各位

「軍医学校跡地で発見された人骨問題」の真相究明を求める
請 願 書

請願団体 軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会
代表 常石 敬一
連絡先 省略 小林気付
人骨焼却差止住民訴訟原告団・同弁護団
代表 渡辺 登(連絡先 省略)

<請願趣旨>
 1989年7月、新宿区戸山町の陸軍軍医学校跡地から、100体以上の人骨が発見された。これらの人骨は、1991年度に新宿区が人種等について鑑定し、現在厚生省がその由来について調査中である。しかし厚生省は人骨が発見された当初から現在に至るまで、当該人骨を速やかに焼却・埋葬すべきであるという見解を示し、新宿区はそれに従って人骨焼却予算を計上している。
 私たちは、これらの人骨は本来焼却されるべきものではないと主張している。その理由は、この人骨が「第二次世界大戦時の医学犯罪の物的証拠」であり、それを焼却することは、戦後50年間、私たちが戦争の被害者および被害国に対して取り続けてきた、事実を事実として認めず謝罪すらしてこなかった後ろ向きの態度を、さらに続けることになるからである。そればかりか、人骨の焼却は戦時犯罪の証拠湮滅にあたり、捕虜条約やジュネーブ条約などいわゆる戦時国際法に反する行為でもある。
 今、この人骨の身元調査を求めて、中国から七三一部隊の犠牲者の遺族が、政府に申立書を提出している。さらにこの問題は、今年4月29日に行われた国連人権委員会、差別禁止・少数者保護小委員会現代奴隷制部会において、第19会期第5議題「日本により強制された奴隷労働」として取り上げられている。
 もはや厚生省、日本国政府は、国際世論の前から逃げることはできない。現在行われている厚生省の調査が、私たちの調査水準を下回ることは到底あり得ないと信じるが、その調査結果がどのようなものであれ、人骨そのものは、私たちが戦争犯罪と真摯に向き合い、二度と同じ過ちを繰り返さない決意を表す意味でも、保存・保管し、身元が明らかになるまで徹底的に調査し、遺族にお返しすべきであり、これを焼却・埋葬することは断じて許されない。

<請願項目>
 以下の点について、実現するよう強く要望します。
1、厚生省は、「当該人骨が身寄りからの申し出もない状況にあり、引き取り手の判明しないものとして速やかに手厚く葬るべきものである」という、現在表明している見解を撤回すること
2、軍医学校跡地で発見された人骨は、政府の責任で保存・保管し、今後も身元調査を継続すること
3、厚生省および政府が行う調査の経過および結果を広く一般に公表すること
4、調査の結果、身元が判明したものについては、遺族または本国に返還し、遺族に対しては相当の補償をすること
5、保存・保管される人骨は、「戦時医学犯罪の物的証拠」として、私たちの反省と戒めの気持ちを込めて、人骨が本来眠るべき場所が判明するまで、然るべき機関で公開すること


     

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