軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会

The association demanding investigationon human bones discovered from the site of the Army Medical College

『究明する会ニュース』146号・要約

宿舎の解体工事は完了
発掘調査への模索がつづく

川村 一之(軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会)

戸山5号宿舎の解体工事は予定通り11月に完了したが、今秋に着手する予定だった人体標本の発掘調査は来年(2011年)にずれこむ見通し。

  • 戸山5号宿舎周辺の状況
    • 第一段階として戸山5号宿舎解体工事が行われた。工事終了の書類は11月17日に厚労省に提出され、厚労省が現場を検査、11月29日に完了。
  • 発掘調査方針策定の遅れ
    • 東京都や新宿区から、人体標本の有無、掘り残しがないなどの確認を求められたことから、当初より慎重な調査が必要との判断がなされた。
    • 12月2日に行った人骨の会と厚生労働省との会合でも、政策医療課の発掘担当者が努力をしていることは確認できた。調査が始まっても、人体標本などが発見されればその時点でストップし、その後本調査が行われることになる。
    • (2010年12月3日)
人骨の会と厚生労働省との話し合い

(12月2日)

  • 出席者
    • 厚生労働省:
      • 河内和彦・企画調整官(医政局政策医療課)西岡雄飛・運営管理係長(医政局政策医療課)渡邉久志・営繕専門官(大臣官房会計課施設整備室)
    • 人骨の会:
      • 常石敬一、鳥居靖、渡辺登、石川久枝、根岸恵子、奈須重雄、平野利子、川村一之
人骨発見21周年集会
「専門家にきく!軍医学校跡地の発掘調査でなにがわかるか」報告
戦争遺跡の発掘 その2

菊池 実さん(群馬県埋蔵文化財調査事業団主席専門員)

お話する菊池さん。右は楢崎さん

遺跡から発見される遺物は、兵器類、軍用品、日用品、建築資材、工具、電気器具など大きく6種類に分けられる。

  • 調査の目的
    • 日本の発掘調査は学術調査と緊急調査(事前調査)があるが、96%は、緊急調査。土木工事など開発に伴う調査が主体。緊急調査でも学術的な調査目的がきちんと設定されなければいけない。
  • 遺跡の時代範囲
    • 「戦争遺跡」が調査対象になってきたのはごく最近。文化庁は1998年に「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化等について」という通知を出した。考古学の時代範囲が広がるにつれ、開発側との摩擦が頻繁に起こってきたので、文化庁は近世や近代の遺跡があっても重要でなければ調査しなくてもいいとした。95年に原爆ドームを文化庁の政府推薦で世界遺産にしながら。近現代史の理解に重要な遺跡だという認識が、日本全国の担当者に共通認識としてない。
  • 調査計画
    • 発掘調査の全工程の見通しと期間、遺物の整理研究と成果の公表の見通し、調査経費の確保、予算の設定など。調査の過程で、現地説明会の開催やマスコミへの発表が必要。最後に記録や出土遺物の整理作業、報告書の刊行がある。県や市町村の中には、報告書を刊行していない例もあるが、予算の中にきちっと位置付けるのが重要。
  • 調査体制
    • 日本で行われている圧倒的多数の緊急調査は、教育委員会、埋蔵文化財調査センター、民間調査組織を中心に編成、数名から数十名で調査を行う。多い時は百数十名ぐらい。最近は担当者が直接指揮をせず、民間の調査組織に作業員を管理してもらい、私たちは調査代理人に指示をして調査する。その地域に精通した担当者が隅々まで見ていかないと記録作成上不備な調査になってしまう。
  • 調査の方法
    • まず試掘調査。試掘面積はだいたい5~10%。旧石器時代の試掘調査では20%や30%ぐらい。遺跡のどこに試掘を設定するか、何カ所設定するかは非常に重要。今回の問題ではこの試掘調査が重要。試掘調査で遺跡の存在が明らかになれば、大型機械を使って一気に表土を剥ぐ。今までの開発に伴う調査では、撹乱層の新しい遺跡が破壊されてきた。目的とする遺構が確認出来たら、人力で少しずつ掘っていく。熟練が必要。掘り下げて出てきたものは、可能な限りその場所に残す。遺物の現位置は非常に重要。ここから様々な情報を得ることが出来る。土層の断面を詳細に観察して記録。土の堆積状態も記録。遺物出土状況の写真、完掘した状態の写真を撮る。平面図、断面図、遺物の出土状況図の作成も重要。要するに細かな出土状況を観察し、記録をとることが重要。
  • 想定される遺構
    • 人骨などを廃棄している可能性があることから「廃棄土坑」という名称を付けたらいい。1945年8月の敗戦時、日本軍は組織的な証拠隠滅を徹底した。今回想定される遺構もまさに証拠隠滅。森村誠一の著作や赤旗の記述、当時の状況などを総合的に考えると、深さ2mくらいか? 関東ローム層をスコップを使って掘り下げるというのは大変な作業。
  • 想定される出土遺物
    • 人体標本である。古墳や中世の火葬墓だとか、これまで人骨が出土した遺跡をたくさん調査してきたが、人骨の取り扱いに失敗した事例が多い。人類学の専門家によるきちんとした観察、図面の作成の指導、取り上げに当たっての諸注意というのが非常に重要。また考古学の立場から重要なのは、共伴遺物の観察と記録化。一つはガラス容器、特徴、陽刻の有無、制作年代の検討が必要。それから医療器具、一点一点の器具の用途を確認する。それから書類、証拠隠滅に伴って書類は相当量が廃棄されているが発掘されることがこれまでたびたびあった。
  • 整理作業と報告書の刊行
    • 最後に、調査・作成した様々な記録をどうしていくのか。出土遺物の洗浄・注記・接合・復元、それから遺物の実測・図化・写真撮影。遺構の図面修正・トレース。撮影した写真の整理。事実記載の原稿執筆と科学分析、考察。そして報告書を刊行する。例えば一年間遺跡を調査すると整理期間は1~2年かかる。報告書の刊行をもって調査は完了。ここまで出来なければ、調査は未完であり、失敗。誰も検証できない。今回は、厚労省のどういう部署が担当するのか、大変に関心がある。これまで話したことが基本的に出来なければ調査の担当にはなれない、ということを考古学の立場から言わせていただきたい。

質疑応答:省略

訃報

10月26日 杉山次子さん逝去。享年85歳。
人骨焼却差止め訴訟の原告や七三一部隊展東京実行委員会の共同代表として活躍

11月2日、湯浅謙さん逝去。享年94歳。
元軍医。中国帰還者連絡会で生体解剖の経験を証言

お二人のご冥福を心からお祈りいたします。

反響広がる共同通信報道

【「戸山の人骨」発掘調査へ】と題する記事が共同通信から配信。全国の新聞各紙、海外メディアでも紹介された。

東京新聞:《2010年10月30日(土)》
佐賀新聞:「戸山の人骨」発掘調査《2010年10月31日(日)》

(共同通信 配信記事 http://www.47news.jp/CN/201010/CN2010103001000032.html)

2010年当時の情報です(2020.05.20時点でリンク切れ)

その他の報道
  • ネット報道
    • 東京新聞、佐賀新聞、北日本新聞、西日本新聞、日本海新聞、福井新聞、大分合同新聞、デイリースポーツ、東アジアニュース、京都新聞、静岡新聞、山梨日日新聞、福島民報
  • 外国報道
    • 中央日報(台湾)、香港文匯報、香港商報、加拿大星島日報

連続フィールドワーク
東京の戦争遺跡を歩く~「坂の上の雲を斬る」~
第三回 「秋山好古が学んだ陸軍士官学校」報告

鳥居 靖(軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会・事務局長)

 11月21日、講師:長谷川順一。19名参加。地下鉄市谷駅の江戸歴史資料コーナー、市谷亀ヶ岡八幡宮、防衛省、迎賓館、明治時代の岩倉具視や大久保利通が襲撃された坂などを通り、解散。

アンケート結果は省略

備忘録

11月3日(水):細菌戦被害者証言集会(細菌戦)
11月17日(水):解体工事終了
11月23日(火):七三一部隊被害者遺族、七三一館長来日、証言集会(七三一人体実験)等
11月29日(月):厚労省の検査終了

2010.12.19

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