軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会

The association demanding investigationon human bones discovered from the site of the Army Medical College

第147回 国会 厚生委員会 第3号
平成十二年三月十四日(火曜日)午後二時三十一分開議

質問者金田誠一衆議院議員
回答者額賀福志郎内閣官房副長官
丹羽雄哉厚生大臣

金田(誠)委員
 民主党の金田誠一でございます。
 額賀副長官には、御出席をいただきまして大変ありがとうございます。
 質問の一点目は、新宿の旧陸軍軍医学校跡地で発見された人骨問題についてでございます。
 経緯を申し上げますと、一九八九年、平成元年の七月二十二日、厚生省戸山研究庁舎の建設現場、国立栄養研究所跡地でございますが、ここから百体以上に上ると推定される人骨が発見されました。現在、人骨は新宿区において保管中ということでございます。
 人骨が発見された土地は旧陸軍軍医学校の跡地であり、そこには戦前、石井四郎軍医によって防疫研究室が開設されておりました。さらに、防疫の実地応用のためとして、満州防疫機関が出先として設立をされたわけでございますが、これが関東軍防疫給水部、いわゆる七三一部隊であったわけでございます。
 このような背景から、人骨はその発見当初から七三一部隊との関連が指摘され、厚生省は土地の管理者としての立場から、あくまでも土地の管理者ということでございますけれども、その立場からその由来について調査することとなり、今日に至っているわけでございます。
 そこで、まず官房副長官にお伺いをいたしますが、このような人骨であるならば、土地の管理者としての立場ではなくて、戦後処理という観点から内閣の責任において調査を行うべきと考えるわけでございますが、いかがでしょうか。

額賀内閣官房副長官
 金田誠一先生の御質問にお答えをしたいと思いますが、先生が御指摘のとおり、戸山庁舎から大量に発見されました人骨につきましては、その土地が旧陸軍軍医学校であったことから、御指摘のように七三一部隊との関連づけで国会でも議論があったことはよく承知をいたしております。
 このため、厚生省におきまして、土地の管理者の立場から、人骨の由来、経緯について、当時の教官や学生等から種々意見を聞いたり、あるいは聴取をしたりして調査を行ってきたということも聞いておりますし、御承知のとおりであります。
 政府といたしましては、厚生省の調査結果が明らかになった段階で、人骨を管理している新宿区が依頼している専門家の鑑定結果なども踏まえまして、種々の観点から対応を検討しているというふうに考えていただきたいと思っております。
 現時点におきまして、いわゆる七三一部隊との関係について、具体的な関連づけを証明する資料は政府部内で発見されておりませんし、また持っておりません。したがって、政府といたしましては、事実関係が明らかになった段階でこれは考えるべきものと思っております。新しい事実関係が生まれれば、厳粛な気持ちで対応させていただきたいというふうに思っております。

金田(誠)委員
 新たな事実関係が実は既に明らかになっているわけでございまして、その辺のところを副長官は十分御承知おきでないのかなと思うわけでございます。
 先般、厚生省から、二月の二十五日付でございますが、「人骨の由来に係る調査の概要」という資料をいただきました。これはお持ちだと思いますが、いかがでしょうか。その中に、旧陸軍軍医学校関係者二百九十三名に対し郵送で調査をしたと。回答があったのが百四十四名、何も知らなかった者が百二十一名、具体的記載のあった者が二十三名ということですから、この二十三名の方の回答が非常に重要な意味を持つと思うわけでございます。
 その中で、「戦場に遺棄されている多数の戦死体の中から、主として頭部戦傷例を選別し標本として、持ち帰ったものと聞いている。」というのが五通ございます。あるいは、「軍陣病理学教官より「研究には戦死体が必要であるが、その入手は甚だ困難である。諸官は、これより戦場に赴くが、機会をとらえて戦死体を軍医学校に送ってもらいたい。」と卒業があるごとに頼んでいたので送った者もあったかも知れません。」というのが一通でございます。
 こういう当時の関係者、恐らく教官か卒業生だと思うわけでございますが、このような極めて重大な証言がある。もちろん七三一部隊と直接関係があるという証言にはなっておりません。しかし、遺棄されている戦死体の中から持ち帰ったという証言は極めて重大でございまして、この二月段階で初めて明らかになった、それ以前は明らかになっておらなかった、私はこう思うわけでございます。これは戦時国際法にも違反することでございます。そして、この遺棄された戦死体なるものが、七三一部隊との関係がないという証言は何もないわけでございます。あるかもしれない。仮になくても極めて重要な問題だ。
 したがって、土地の管理者という立場ではなくて、戦後処理という観点から処理する段階に来た、調査する段階に来たということを問いただしているわけでございます。改めて御回答をお願いします。

額賀内閣官房副長官
 先生が御指摘のとおり、二百九十三名に対しまして郵送をし、その中から具体的に二十三名の者から回答があったということは、御指摘のとおりなのであります。そしてまた、今おっしゃられたことも先生の言うとおりであるというふうに理解をいたしております。
 しかしながら、七三一部隊との関連づけの中でこの回答がなされたというふうには聞いておりませんし、また、我々が防衛庁の防衛研究所あるいは国会図書館等におけるさまざまな資料を検討した結果においても、七三一部隊との関係を直接裏づけるものはありません。
 したがって、私どもがこの調査について断念をしたということでもないわけでございますけれども、引き続いて調査をしていく過程で新しい事実関係が生まれれば、これはきちっと対応していくものであるというふうに考えております。

金田(誠)委員
 戦場に遺棄されている多数の戦死体の中から持ち帰ったと。七三一部隊ではないかもしれないし、あるかもしれない。しかし、いずれにしても、戦場に遺棄された死体を持ち帰ったということは戦時国際法に違反をする行為であって、戦後処理という観点から当然解明されてしかるべきだということを私は申し上げているわけで、その点どうでしょうか。

額賀内閣官房副長官
 この文書を全部詳細にまだ読んではいないんですけれども、この統計をまとめた中で、「戦場に遺棄されている多数の戦死体の中から、主として頭部戦傷例を選別し標本として、持ち帰ったものと聞いている。」というふうにありますから、直接この方もそれを見ているわけではないというふうに承知をしておりまして、事実関係が、いかようにこれがなされてきたのかという経緯について判断をしかねる場面があるわけでございます。
 したがって、確かに七三一部隊とは関係がないということを断言しているわけでもないし、また関係があるとも断言をしているわけではありませんから、私どもは、これについて、きっぱりともうこれ以上調査をしませんというふうに言っているわけではないのであります。

金田(誠)委員
 もはやその調査が土地の管理者という非常に限定された立場からの調査であってはならないということを申し上げているわけです。
 戦地から持って帰ってきたということは、かなり確実な状況ではないでしょうか。御自身が持ってきたという方がもしおられたとしても、その方が果たして証言していただけるかというと、極めて困難な状態になるのではないでしょうか。あるいは、五十年という歳月の流れを考えれば、その方が直接証言される可能性は極めて少ないかもしれない。この軍医学校に関係していた恐らく卒業生の方が証言をされたというのは、これ以上の証言というのはあり得るんでしょうか。かなり確度の高い証言として受けとめて、土地の管理者という立場ではなくて、戦後処理という観点からの調査に切りかえるべきだということを私は申し上げているわけです。
 内閣として検討対象になりませんか。今、恐らく副長官は官房長官なり総理なりとも話を詰めてここに来ておられるわけではないと推測するわけですが、そうした立場で持ち帰っていただいて、総理、官房長官、あるいは厚生大臣、こういう中で戦後処理という観点から調査に踏み出す状況になったという御判断をいただけるかどうか、検討していただけませんでしょうか。

額賀内閣官房副長官
 先生の御指摘についてのことでございますけれども、例えばこのアンケートの中で、戦場からそういう遺棄死体を標本として持ってきたのではないかという証言があるということについては重く受けとめる必要があるのではないかと思います。しかし、事実関係についてきちっと我々が確認しているわけではないのでありますから、そこのところは、今後我々がどういうふうに対応していくかについて、十分先生の御指摘を踏まえて検討させていただきたいというふうに思います。

金田(誠)委員
 検討していただけるというふうに受けとめさせていただきます。それでよろしいですね。ぜひ戦後処理という観点から検討をいただくようによろしくお願いをしたいと思います。
 次の質問に移ります。厚生大臣、今日までの調査結果についてお聞きをしたいと思います。
 歴代厚生大臣、九二年には山下徳夫大臣、九三年に大内啓伍大臣、九六年には私どもの菅直人大臣ということで、歴代大臣が調査を約束して今日に至っております。
 そこで、事の重大性からして、調査はずさんなものであってはならないと思うわけでございます。聞き及ぶところでは、どうも、担当者の方はほかに仕事をお持ちで、いわば仕事の合間にという状況のようでございます。調査委員会などもなければ専門の事務局もないし、予算もないという状態と聞き及んでおります。どのような体制かということでお聞きをしようと思いましたが、何も体制はできていないということのようでございます。
 そこで、大臣、今検討されるということで副長官はお答えいただきましたけれども、今まで土地の管理者として調査をしてきたお立場から、この戦死体の中から持ち帰ったという状況を受けて、内閣として戦後処理という観点から調査を行うように総理、官房長官に進言をしていただく、厚生省、厚生大臣としてはそうすべきだということで進言をしていただけないか。通告書に書いてございませんでしたが、大臣、いかがでしょうか。

丹羽国務大臣
 これまで、厚生省といたしましては、一応の調査結果の取りまとめをしつつあるわけでございます。真相を究明すべきという主張をなさる市民団体の方々にも情報の提供をお願いいたしておりますが、現実問題として、四年近く新たな情報は得られておらない状況でございます。いずれにいたしましても、速やかにこれまでの調査結果を公表できるように取りまとめ作業を急がせたいと考えております。
 公表時期につきましては、聞き取り調査に協力していただいた当時の関係者に、報告書の内容の御確認をいただく必要があると考えておりまして、ある程度の時間をいただきたいと思っております。

金田(誠)委員
 厚生大臣、副長官が内閣としても検討する、戦後処理の観点から調査をするかどうか検討するという御答弁でございましたが、厚生大臣としても、検討すべきだという進言をするという御答弁をいただけませんでしょうか。それが一つ。
 あわせて伺いますけれども、ぜひ資料を提出していただきたいと思います。
 調査の計画書なりに基づいて調査がされたものと推測をするわけですが、調査の計画書なりこれに類するものがあれば御提出をいただきたい。それから、収集した資料の目録をできるだけ正確にお出しいただきたい。それから、九三年十一月十一日の参議院厚生委員会での答弁を見ますと、GHQの資料についても調査をするということでございました。このGHQ資料、翻訳されていればその翻訳されたものをお出しいただきたいなと思います。四つ目、関係者の聞き取り調査とアンケートということで実施をしておりますから、その内容といいますか、調査票、回答書というのですか、それは固有名詞などは出せないと思いますが、その他の部分をお出しいただきたい。
 以上四点でございますが、この資料をお出しいただけるかどうかでございます。

丹羽国務大臣
 厚生省といたしましては、土地の管理者としての立場から人骨の由来調査を行ったものでございます。戦後処理の観点から調査を行う立場にはないと考えておりますが、議員からの強い御指摘がございますし、政府全体として考えていただければ幸いだと思っております。
 それから、数々の調査資料につきましては、早速内部で検討させていただきます。

金田(誠)委員
 大臣、ぜひ閣僚の一人として、内閣の一員として、これは国際的にも日本が責任を負うべきものだと私は思います。その点では同意いただけると思いますので、もはや土地の管理者などでやっているものではないという観点から、今まで調査をしてきたお立場から、内閣としての調査ということでぜひ進言をしていただきたいと思います。資料については、よろしくお願いを申し上げたいと思います。
 時間が大分過ぎてしまいましたが、途中をはしょりまして、最後に一点。今新宿区で保管されている人骨でございますが、これを調査が終了するまで、遺骨として丁重に内閣の責任で保存をすべきではないか、保管をすべきではないかと思うわけでございます。新宿区さんも大変御苦労されているようでございますけれども、これはそこで出土したのだからという墓埋法云々の話ではない。戦地から持ち帰ったということが証言として出ているわけでございますから、遺骨の保管についても政府の手に移すという形で御検討をいただけないか。大臣と副長官、それぞれお願いします。

丹羽国務大臣
 厚生省といたしましては、先ほども申し上げたわけでございますが、土地の管理者の立場で由来調査を行ってきたところでございます。したがいまして、墓地、埋葬等に関する法律に基づきまして人骨を既に新宿区に引き渡しました時点で法律上の義務を果たしていると考えておりますが、御指摘の趣旨を踏まえまして、関係省庁とも対応を検討の上、新宿区と相談してまいりたい、そう考えております。

額賀内閣官房副長官
 現在、今厚生大臣からお話がありましたように、人骨は、墓地、埋葬等に関する法律に基づいて新宿区において保管をされているわけであります。厚生省の調査で、公表に向けて手続を始めたというふうに聞いておりますので、政府としても、厚生省の対応を見ながら検討してまいりたいというふうに思っております。

金田(誠)委員
 墓埋法の機械的な適用などということは、間違っても考えないでいただきたい。歴史的な、国際的な責務を日本政府は負っているという立場でぜひお考えをいただきたい、強く要請をしておきたいと思います。
 実は委員長、この人骨の現物を私は見たいと思いまして、新宿区さんに電話で要請をいたしました。どなたにも見せておらないということで丁重に断られたわけでございますけれども、国政上極めて重要な問題だと思っております。国政調査権ということもあるらしいのですが、そうしたものも含めまして、何とかこの委員会あるいはそのメンバーである私という形で現物を拝見できるように、その重さというものを、事の重大さというものを直接体験することによって受けとめさせていただくというふうに思っているものですから、しかるべく手続をとるようにお願い申し上げたいと思うのですが。

安倍(晋)委員長代理
 後ほど理事会で協議をしていただきたいと思います。

金田(誠)委員
 ありがとうございます。
 それではもう一点、人骨発見地の隣接地における新たな人骨問題ということでお尋ねをしたいと思います。
 この人骨が発見されたところに隣接する用地が今多目的運動広場の建設予定地ということになっておるわけでございますが、これに対して、人骨問題を調査していた市民団体から、陸軍軍医学校の元看護婦であった女性の証言ということで、こういう証言があったそうでございます。事務の男性幹部から、敗戦直後、防疫研究室の空き地に穴を掘って標本などを処分した、進駐軍が来て掘り返されると困るので、埋めた場所に病院の官舎を建てて住んでいるという話を聞いたと。こういう証言をもとに、新宿区議会に調査を要望する陳情が一九九八年に提出されております。
 そこで、質問項目をいろいろ用意したのですが、最後に一点だけにしまして、官房副長官、この問題もまた戦後処理の問題であろうと思います。内閣として、前段申し上げた人骨問題とあわせて検討して、しかるべく所管を決めて調査をしていただきたい、前段の人骨問題と一緒に検討していただきたい。こう御要請申し上げたいと思いますが、いかがでしょうか。

額賀内閣官房副長官
 私が最初の人骨問題について検討をしたいと申し上げましたのは、先生が御指摘のとおり、戦場に遺棄されている多数の戦死体の中から、主として頭部戦傷例を選別、標本として持ち帰ったものと聞いているという、言ってみれば回答もあったわけでありますから、それは重く受けとめて、事実関係があったのかどうかということを調べていく必要があるという意味で申し上げたつもりでございます。
 そしてまた、今の御指摘で、多目的運動広場を建設する地域の調査をしたらどうかという御指摘につきましては、既に発見された人骨について厚生省がさまざまな視点から調査検討をしてきておりますので、私どもは、その結果が近く公表されるというふうにも聞いておりますので、その事実関係を見た上で考えるべきものであるというふうに思っております。

金田(誠)委員
 現在の百体以上に及ぶと言われる人骨、この問題を解明する上でも、その隣接地に埋めた、その上に官舎を建てて住んでいるという証言は極めて重大な証言だと私は思います。そちらもあわせて調査することによって、現在新宿区に保管されている人骨の調査もより進むことになる。一体のものとして調査することが有効だと思います。今即答はなかなか難しいようでございますけれども、今後また機会を改めて質問もさせていただきたいと思いますので、ぜひ御検討いただきたいと思います。

人骨問題・答弁記録

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