軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会

The association demanding investigationon human bones discovered from the site of the Army Medical College

第123回 国会 法務委員会 第9号
平成四(1992)年四月二十四日(金曜日)午前十時一分開議

質問者鈴木喜久子衆議院議員
回答者寺松尚厚生省社会医療局長
木村政之内閣官房内閣外政審議室内閣審議官
原田隆法務大臣

鈴木(喜)委員
 今回、それのまたもとになるような外国人の人権にもかかわる問題として一つ問題が生じて、新聞等にも大きく取り上げられました問題を質問していきたいと思います。
 昨年の八月の末に、東京都の新宿区の戸山町、現在そこは厚生省の予防衛生研究所というのが建設予定で、相当に建ち上がっているところの土地ですが、昔、旧陸軍の軍医学校のあった跡のところの工事現場から三年ほど前に、そのころは三十五体ぐらいの人骨が掘り出されたという事件がございました。そして、それをさっき申しました去年の八月の三十一日になりましてから新宿区がこの骨についての鑑定を依頼しました結果がことしの三月の末に出て、その公表が今月の二十二日になされたわけでございます。
 前々からこの骨が一体どのような経過でここに埋められたのかということについてさまざまな憶測それから推理、推測がなされてきたわけでございますけれども、日本人がそこでもしかしたら戦災で焼けて倒れて、それが全部そこに埋められていたのかもしれない。その場所が軍医学校の研究所であり、しかもそこは七三一部隊という名称で知られる給水それから防疫の研究をするという名目の研究所のあったところ、石井さんという方のおられた場所であるというようなことがあって、さまざまな憶測が、新宿区ばかりではなく全国的になされていたわけです。これについて私は、二年前に衆議院に入って以来さまざまな形で委員会等において質問をしてきたわけでございますけれども、基本的には、この骨がどこの国においてきちんと眠ることができるか、その骨をその場所できちんと眠らせてさしあげることがまず第一に必要なことじゃないか。日本だったら日本、そのほかだったらそのほかの国で、しかもそのほかの国で眠らせるということ自身の調査の中で、一体どのような経緯でこういった人骨がここにこういうふうにたくさん埋められていたのかということについてやはり調査していかなければならないのじゃないか、こういった立場から質問をしてきたわけです。
 新宿区は早くから区議会で全会一致で鑑定を決め、鑑定を依頼しようとしたのですけれども、なぜかどこに行っても、最初は受けても、断られるという形で、二年近くがそのままいたずらに過ぎてしまって、葬儀屋さんの倉庫の段ボールの中にむなしくその骨が眠っていたのですけれども、幸いにして昨年受けていただいた大学の先生のところで出た結果ということになりましたらば、この結果を鑑定書が出てきて見てみますと、人体は三十五どころではなくて、頭の骨だけでもそれぞれの方のが五十個ぐらい、全体の骨から見ますと、約百余りの遺体の骨であるということがわかった。しかも、非常に多くの頭蓋骨の部分がありまして、この骨の部分には、弾が撃ち込まれてできた穴があいているというのが一つ、それからドリル様の物で頭に穴をあけるというような、脳外科的な形での頭に穴をあけるというようなこととか、中耳炎の治療のように耳の下のところを穴をあけるというような、人為的な工作を加えられたものがまたたくさん出てきた。そのほかに、首の骨のところは鋭利な刃物で切り断たれている、そういった、どう考えても自然に亡くなられた方または焼け死んだ方の骨というような可能性のない、首だけ切って、そしてそれが頭蓋骨になってというような形のものが多いというような結果が非常にたくさん出てまいりました。
 年齢も壮年の方が多く、しかも女性がその中に約四分の一含まれている、男性が四分の三、そして少年と思われる十五歳ぐらいの骨も一つ含まれている、こういった結果が出てきたわけでございます。そして、人種についてはモンゴリアン、モンゴル系のというところまでぐらいしか判明はしないのだけれども、しかしその中には、例えば日本人というような一つの民族ではない、その骨の中に、日本人もあるかもしれないけれども、しかし日本人だけでない、日本人を含むかもしれないけれども、そうでない人たちもある骨であるということが今回の鑑定の結果わかったわけでございます。厚生省の方にもその当日既に鑑定書は送付されていると思うのですが、非常に重要な事態になってきたと思うのです。
 二十二日の当日に新宿区の方が発表したコメントの中に「人骨の身元調査に対して国(厚生省)からは拒否されているという従来からの経緯もございますが、この鑑定を国(厚生省)に送付し、今後さらに協議を行います。」というふうに書かれております。そして、区としては、これを引き取り手のない、引き取り手のわからないそうした方の遺骨というふうにして、そういうものについては墓地、埋葬等のそういう方々の法律ということで、区長として、焼いて葬りたい、こういうふうに一応言っているわけですが、ここまでいろいろなことが明らかになってきた現在、そこに研究所を建てておられ、しかもその前に軍医学校の用地であったその土地を今管理しておられる厚生省としてはどのように考えられますでしょうか。

寺松政府委員
 先生の御質問、厚生委員会でもお答えいたしましたけれども、発見されました人骨につきましては、土地の管理者といたしまして、法令等に定めます所要の手続に従いまして適正に処理したと思っているわけでございます。
 先般、先生今おっしゃいました新宿区に鑑定の結果が出たということの事態になりまして、私どもは、とりあえず土地の管理者であります国立健康・栄養研究所を所管しております立場から保健医療局におきまして、新宿区から御協議があった場合には、鑑定結果の具体的な内容あるいは区の考え方等も十分お聞きいたしまして考えてまいりたい、このように思っております。

鈴木(喜)委員
 十分お聞きするところまでは結構ですけれども、考えてまいりたいの内容がまず知りたいわけです。今ここでこの骨を焼いてしまったり、そしてまたこれを埋葬してしまった場合には、もうこれ以上何もわからなくなってしまいます。今ここまで鑑定の結果が出たということについては、厚生省としてはこの調査について、もっと詳細なものについてあらゆる調査をすべきじゃないのですか。

寺松政府委員
 今の先生の御質問でございますが、私どもまだ正式に新宿区からお話を聞いておりません。新聞等では報道されておるわけでございますし、先ほど御説明いただきました鑑別の結果につきましてはいただいておるわけでございますが、非常に専門的なことでございますので、区の方で十分佐倉先生から、鑑定の先生からお聞きになっているように聞いております。したがいまして、その辺のお考え方もいろいろお聞きした上で、今後の人骨の取り扱いにつきましては、土地の管理者としての立場を踏まえつつ、新宿区の協議に慎重に応じてまいりたい、このように思っております。

鈴木(喜)委員
 何もお答えになっていないのと同じだと思うのです。慎重に応ずるということはどういうことなんですか。今までの厚生省の態度を踏まえということは新宿区も言っているのです。そうしますと、どうしてもそこで専門的なことをお聞きになって、どんな専門的なことをお聞きになるかわからないけれども、それによって、ああもうわかったのですね、ここまでわかったのだから、もうこれ以上はわからないのだから、これを焼いて埋めてしまいましょう、そして日本で手厚く葬りましょう、そういった結論を出される可能性があるかどうかということを聞いているのです。

寺松政府委員
 先ほども申し上げましたように、新宿区から正式にはお話がございません。したがいまして、新聞報道等につきましては、人骨を葬るとか焼骨するという場合については厚生省ともよく相談する、こういうふうに聞いておりますので、恐らく新宿区からお話があるかと存じます。それに応じまして私どもも考えてまいりたい、このように思います。

鈴木(喜)委員
 もうここの場面において新宿区は主体じゃないのですよ。新宿区は厚生省に御相談をしたいと言っているんですよ。だから、詳しく聞いてから返事をするのじゃなくて、現在出てきているものがこの鑑定書なんですよ。それについて、基本的な姿勢としてこれ以上調査をしようとしているのかしていないのか、その点を伺いたいと言っているのです。ただ単に新宿区から聞いてそれで答えを出すというだけの答えを今私はここでいただこうと思っているわけじゃないのです。ここで、もっと詳しく調査をする必要があるかないか、そう思っておられるかどうかを聞いているのです。

寺松政府委員
 厚生委員会でございましたか、先生が厚生大臣に御質問になりましたときに厚生大臣が申し上げたと思いますが、いろいろと聞き込み等もやってみたい、こういうことでございまして、私どももその指示を受けましていろいろとやっておりますが、何分昔のことでもございますので非常に難しいということは御承知おきいただきたいと存じます。

鈴木(喜)委員
 何分昔のことであっても、今ここまで鑑定の結果出てきたわけですよ。何もわからない骨でございます、昔のことはわかりませんというふうなことを前にもいろいろな、私の個人的なところでの質問についても、それからまた公の委員会での質問についても、そのことについてはもうわからないことばかりでございますと言っていたことが鑑定で、それも半年ですよ、半年の鑑定の中でこれだけのことがわかってきているわけですよ。このわかってきたことを、何分昔のことでございますからなどと言っている間にどんどん年がたってしまいますよ。今ならまだ生きておられる方もある、生き証人の方もある、そしていろいろな文書もどこかにあるかもしれない。そういったことにどのぐらい厚生省が熱意を持ってやっていただけるかどうか。
 私はこの問厚生委員会で質問したときに、厚生大臣が、調査をしましょう、そういった確認をしていただいたことを非常に前向きな姿勢として評価をしておりますけれども、それについて、今こういったものが具体的に出てきたときに、まだ新宿区と相談しましてとか中身を聞きましてということではなくて、もっと具体的にそして主体的に厚生省がかかわってもらいたいと思うのです。厚生省としてはこの問題を区の問題だと思っておられるのですか。
 既にこの問題は、軍が関与して異常な形で昔なら首を運んできたと思われるんだよ、切断して運んできたと思われるんだよというふうに言っている、こういう事情からいきますと、これはやはりこれまでの戦争の責任の一つの事態ではないか、私たちのもう少し先輩の人たちがずっと行ってきた戦争の中の一つの結果、こういうものが出てきたのじゃないかと思われるのです。これは国の問題としてかかわらなければならないので、新宿区の問題、区が主体となった問題ではないのですけれども、そのあたり厚生省は、厚生省が主体だというお考えがおありなんでしょうか。

寺松政府委員
 私の方からお答えするのが適当かどうかと前の御質問のときにもお答えしたのでございますが、私どもは土地管理者としての立場からはいろいろとこの問題についてかかわりがあるので、先ほども申し上げましたように厚生大臣からいろいろ、今先生が御指摘のように、まだ現存される方がいらっしゃるかもしれない、それからいろいろな資料があるかもしれない、そういう中からいろいろと聞き込み等もやって調べるように、こういう御指示をいただいておりますので、そのお話は私どもが今担当してやっておるところでございます。

鈴木(喜)委員
 今のその調べておられることと、今回ここに衝撃的なこうした鑑定書が出てきたこととのその結びつきで現在どのように考えておられるか、この鑑定書というもののほかにもこの骨をもっともっと細かく調べていく必要があるのではないかということを、私はさっきから再三お尋ねしているのですけれども、その必要がありともないとも今言えないということなんですか。

寺松政府委員
 鑑定結果でございますけれども、私ども、やはりこれは十分鑑定者の方の御意見を聞かれた新宿区の方から直接詳しくお聞きして、これに対して判断するということになると思います。私ども、新聞等で報道されていることがどうのこうのという問題じゃございませんで、やはり役所としまして、その辺のお話を十分聞いた上で考える、こういうことだと思います。
 それから、鑑定結果のお話はそれといたしまして、いわゆる人骨の由来という問題はまた別途あるわけでございます。鑑別の方法につきましては、これは新聞報道のところでございますけれども、モンゴロイドというお話でございまして、まだどこという人種を特定できないというふうに伺っております。したがいまして、その辺を十分お聞きしたい、このように考えておるわけであります。

鈴木(喜)委員
 そのモンゴロイドというところから、今、一つの民族ではなさそうである、少なくとも複数の民族が入っているんだ、仮に日本人が入っていたとしても他の民族も入っているんだというところまでこの鑑定書の中でわかっているし、そのことは鑑定書の中の文言で書いてあって、専門的な用語でも何でもない。私が読んでもわかるような、そういった言葉で書いてあるわけですから、その点について、あと何を区からもう一度詳しくお聞きになるのか。詳しくお聞きになることは、それは十分に聞いていただきたいと思いますけれども、決定されるのは区ではなくて厚生省の方であるということについての自覚をお持ちいただきたい、このことを言っているわけです。
 区に相談を受けたからただ相談に乗るということではなくて、ぜひとも厚生省として主体的に動いていただかないとこの問題は解決しないし、もっともっと調べる必要があるのではないか。少なくともここで今この人骨を焼いたり埋めたりしてしまうことのないようにぜひともお願いをしておきたい。骨が語っている、語りかけていただいていることについて、その口をふさいでしまうようなことを厚生省というお役所の手でしないでいただきたいということをぜひともここでもう一度お約束をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

寺松政府委員
 今先生がおっしゃいました、口を封ずるとか封じないとかいう問題じゃございませんで、やはり事実について私ども十分調査もし、伺っていきたい、このように考えております。

鈴木(喜)委員
 市町村長の埋葬の権限、義務というものについては、埋葬とか火葬を行う者が判明しないとき、いないとき、このときに区なら区長さんができるわけでございますから、そうなりますと、今回の場合には、この土地の管理者が厚生省であり、しかもこれを埋めたのがその土地の所有者、そのころの管理者である者が埋めたわけで、その土地を今管理しておられるのが厚生省だとしますと、埋葬、火葬を行う者の権限は区にはもはやないというふうに考えなければならないのだろうと思います。この人骨を埋蔵物というふうに考えたとしましても、その所有権は、骨の所有権というふうな言い方はおかしいのですが、やはり現在の土地の管理者というところに一定の権限というものは来るのだろうと思われます。この点についても厚生省の方でよくお調べいただき、また、くれぐれも申し上げておきますが、ここでこの人骨について軽々に焼いたり埋めたりすることのないようにお願いをしておきたいと思います。
 この問題は、私は厚生省が、この間の厚生大臣の調査についてのお約束ということも含めまして、これからもずっと骨の物理的、科学的な調査と並行して、周りの人たちのいろいろな意味での調査とか、または海外に置かれております軍事裁判の資料その他について、今回も七三一部隊の資料はアメリカの方から情報公開で回ってきたというふうに聞いておりますが、そういった資料も含めましてそれを調査するということを、おいおいとかだんだんとかいうことではなく、きちんと特別の調査委員会でもつくってやっていただきたいと思います。この点について、厚生省ばかりでない問題として、厚生省と内閣、お二方からお聞きをしたいと思います。

寺松政府委員
 先生のお話の件でございますけれども、この人骨自身の問題についていろいろ調査するということは先ほど何度も申し上げました。それから、この人骨にかかわりますことで、海外で保管されている資料につきまして土地管理者としてやるのが適当なのかどうかはよくわかりません。私もそう思います。しかしながら、機会あるごとにまた努力もしたいとは思いますが、その辺は御了解いただきたいと存じます。

木村説明員
 人骨の調査の問題につきましては、厚生省からも私ども報告は受けております。いずれにいたしましても、現在、厚生省の方で新宿区から説明を聴取するということを聞いておりますので、内閣といたしましてはその結果を見守りたいと思っております。

鈴木(喜)委員
 ぜひ、内閣としては結果を見守り、この問題を放置することのないようによろしくお願いするとともに、厚生省としましては、先ほどから何回もしつこく申し上げましたけれども、済みません、寺松さんもう一回、骨の保存ということについて、軽々に、私たちの目や耳に触れないというか、ただ一片の御報告だけを承って、もうこれは焼くことにしましたとか埋めることにしましたということのないように、国民の疑惑がまだまだある段階ではこれを解明するための努力をしていただきたいのですが、一言お約束いただけませんか。

寺松政府委員
 何度も申し上げておるので同じことの繰り返しになるのでございますけれども、今、葬るとか葬らぬとか、勝手にやみに葬るとかいうような話ではないと私ども思います。したがいまして、これは御承知のように、墓地、埋葬等に関する法律とかあるいは死体取扱規則というような法律もございます。この法律からいきますと区も関係してくるわけでございますので、区とも十分協議しながら対応していきたい、このように考えております。

鈴木(喜)委員
 この点については、ここで調査をやめるということのないように、ここまで出てきた大変な鑑定書でございますので、ここから突き進んだ形でやれるようにぜひともお願いしたいと思います。  最後に法務大臣、この問題についてお考えがありましたら、一言お聞かせください。

田原国務大臣
 所管を越える話でありますが、政治家の一人としてお答えします。
 国民の重大な関心が集まっている事件ですから、うやむやにすることなく処理をしていただきたい、こう思います。

鈴木(喜)委員
 どうもありがとうございました。終わります。

人骨問題・答弁記録

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