軍医学校跡地で発見された人骨問題を究明する会

The association demanding investigationon human bones discovered from the site of the Army Medical College

第120回 国会法務委員会 第6号 平成三(1991)年三月十二日(火曜日)午前九時三十二分開議

質問者鈴木喜久子衆議院議員
回答者井口憲一警察庁刑事局鑑識課長

鈴木(喜)委員
 では次に、前回もちょっと取り上げたのですけれども、新宿区において元の陸軍軍医学校の跡地、現在そこに国立予防衛生研究所を建設中でございますけれども、その建設現場から三十五体にも上る人骨が掘り出されたという事件についてお伺いをしたいと思います。
 科学捜査研究所の方でいろいろとお調べになったということで、前回伺ったのですが、この事件が新宿区の牛込警察署にまず通報されたときに、牛込警察署の方ではどのような手続といいますか、捜査方法をとられたのか、まずそこから伺いたいと思います。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 本件の通報を受けました警視庁牛込警察署は、平成元年七月二十二日に通報を受けたわけでございますけれども、直ちに現場に臨場いたしまして、いわゆる現場の状況につきまして調査をいたした次第でございます。この工事現場の工事関係者からの事情聴取並びに人骨様のものにつきまして発掘と申しますか、収集を行い、この骨につきまして警視庁科学捜査研究所におきまして鑑定をいたした次第でございます。

鈴木(喜)委員
 犯罪捜査の過程でございますから、まず現場写真をお撮りになったことだと思います。それから実況見分調書も多分つくられていると思うのですが、その点はいかがでしょうか。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 先ほど申しました通報のありました平成元年七月二十二日に、牛込警察署員が現場で写真を撮影いたしております。また、現場の状況につきましては、報告書にまとめてございます。
 以上でございます。

鈴木(喜)委員
 それからもう二年ぐらいたつわけなんですけれども、これがなかなか外にあらわれない。もちろん捜査の過程で収集したものだから公開をすることは原則的にできないことはよくわかっておりますけれども、他に見るべきものがない場合、しかも、これは犯罪に関係ないという御判断があった場合、写真なり実況見分の報告書というものを私どもの方に見せていただくというわけにいかないのでしょうか。

井口説明員
 警察といたしましては、捜査の過程で収集いたしました資料につきましては公表いたしておりません。

鈴木(喜)委員
 これは本当にどうなっているのか。三十五体ものたくさんの、言うなればばらばら死体です。ばらばらの死体。しかも一つではなく三十五体もあるという異常な、人骨が正規に埋葬されずに、しかも、もともとが陸軍軍医学校の跡地にあったという、そういう状況があれば、一体これはどういうことなのかというさまざまな憶測を呼びます。幾ら犯罪に関係がないと言われても、それはどういう状況かというと、骨がもう古くなって、二十年以上たっているので、これから先公判維持は関係がないということにもしもこれをおとりになってしまうとするならば、住民たちの疑惑はいつまでたっても消えることなく残ってしまいます。むしろ中身を公開していただいて、きっちりと、これはこれこれこういうわけで犯罪とは関係がないものだ、または全くわからないものだということがわかるような形で公開していただきたいものだと思います。
 今はそれができないということであれば、伺っていくよりしようがないと思うのですが、最初、建設現場の作業員が掘ったらば骨がたくさん出てきた。写真はその状況のままで撮られたのですか。また調書も、骨がばらばらな形というか、発掘を一遍した、そのままの状況ということでその現状を報告されているのでしょうか。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 写真に写っている中身の具体的な詳細については控えさせていただきます。その報告書でございますが、現場の状況につき客観的に報告しているという内容でございます。

鈴木(喜)委員
 この骨をすべて拾い出して収集をされたのは警察でございますね。それで、その中から一応の鑑定に回すということで数体の部分を鑑定に回されたと聞いておりますけれども、どういう基準でその骨を選ばれたりしたのでしょうか。

井口説明員
 まず一般に、白骨といいますか骨からいろいろなことを鑑定と申しますか、いろいろ情報を得るというためには、骨の保存状態がいいといいますか、そういうことが理想的なわけでございます。今回発見されました人骨は、大変入りまじった状態といいますか、しかも消失している部分もかなり多くあるというふうに思われましたので、したがいまして、発見されたときの状況から比較的原形をとどめた骨を抽出した、こういうふうに報告を受けております。

鈴木(喜)委員
 それが大体五体分くらいあったということなんでしょうけれども、その余の骨については、原形をとどめていないというか、保存が悪いという御判断のもとに何も手をつけておられずに、だれが保管しているのでしょうか。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 これは、鑑定を行いました後に、七月二十七日に鑑定をすべて終わっておりますから、一部は二十五日に、それからほかのものにつきましても二十七日に、新宿区の方に引き渡ししてございます。

鈴木(喜)委員
 この鑑定をするときにどのような方法でやられたかということなんですけれども、外観から見たということのほかにやられたことは、紫外線照射検査ですか、それによってなされたという、その二通りでなされたのですか。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 まず、今回の鑑定を具体的に若干申し述べさしていただきますが、まず人骨か否かについて調査をいたしたわけでございます。人骨か否かという検査につきましては、形態学的検査を行いまして、頭蓋骨及び骨片から人の骨である、こういうふうに推定いたしました。
 また、性別の推定につきましては、頭蓋骨について、みけんと申しますか、あるいは眉弓、まゆの上の部分のところ、こういったいろいろな特徴点がございます。これも形態学的に検査をいたしまして、五個の頭蓋骨のうち二個は男性、一個は女性のものと推定いたしました。残りの二個につきましては、今申し上げました特徴点というのが非常に欠損いたしておりまして、性別の推定はできませんでした。大腿骨及び脛骨につきましては、骨の長さなどをはかって調べる、いわゆる人類学的と申しますか計測方法によりまして、大腿骨並びに脛骨いずれも男性のものと推定いたしました。
 年齢の推定につきましては、頭蓋骨のうち女性と推定された方の頭蓋骨、これにつきましては、頭蓋縫合と申しますか、いわゆる頭蓋骨の真ん中を前後に走っている縫い目と申しますか、これの癒着が年齢によって違いますので、この消失の度合いによって年齢の高い低いというものを推定いたしております。したがいまして、本件につきましては、これの癒着による消失の状況からおおむね二十歳代の骨であろうかというふうに推定いたします。残り四個の頭蓋骨につきましては、成人に達しているということは推定されますが、何歳かということは推定は不可能でございました。大腿骨及び脛骨につきましては、骨の両端が完全にくっついておりましたものですから、成人に達していることは推定されましたが、それ以上の詳細な年齢は推定不可能でございました。
 死後経過時間につきましては、これは先ほど紫外線照射と先生おっしゃいましたけれども、まず骨の色調、色合いの観察、それから骨の表面のいわゆる脂肪分の状況、こういったものを調べる、私ども、外観検査と申しますか、そういった検査を行いました。さらに加えまして、紫外線を骨の断面部に当てまして、これによる螢光の発生の度合いを調べる、いわゆる紫外線照射検査をあわせて行いました。これらのもろもろの検査の結果、五個の頭蓋骨と骨片はいずれも死後少なくとも二十年以上経過しているもの、こういうふうに推定されたわけでございます。

鈴木(喜)委員
 少なくとも死後二十年以上経過しているという点がわかったということですけれども、じゃ今度は、長くともどのくらいは経過していないといいますか、要するに二十年から五十年の間であるとか百年の間であるとか、そういう方はわかるのでしょうか。

井口説明員
 お答えいたします。
 少なくとも二十年以上経過しているということ以外には推定されることはありません。

鈴木(喜)委員
 これも不思議な気がします。これが何百年もたっているものであれば、当然今度は文化財の問題でありますとか遺跡の問題でありますとか、そういう問題が生ずるわけでございますから、どのくらいまでたっているかということが大ざっぱな関係でもわからなければいけないと思うのですが、その点も何もお調べになっていないということですから、これについても鑑定の結果報告書というものが存在しているわけでございますから、私それを見せていただければ一番いいことだと思うのです。それも公開というか公表されないのでしょうか。

井口説明員
 お答えいたします。
 捜査の過程で収集いたしたものについては、公表を控えさせていただきます。

鈴木(喜)委員
 ここらあたりが私の一番何とも腹立たしいところでございますけれども、今すぐにここで公開されないということであれば、お聞きする以外ないので聞いていきます。
 実はこのことに関しまして、この鑑定書の依頼の項目なんですけれども、その中には人種というのが抜けております。前回お聞きしたときに、人種の場合、それは調べなかったのではなく、調べようとしたのだけれども調べることが不可能であったのだというようなことを、初めはそうじゃない、人種は調べてなかったとおっしゃったのを訂正されて、そして、調べたけれども調べようがなかったというか、わからなかったのだというお答えをいただいたのですが、実はその鑑定書というものの中の調査依頼の項目の中に、そもそも人種ということは入っていなかったのではないでしょうか。

井口説明員
 鑑定の依頼の内容の具体的な詳細につきましては、要するに捜査上必要なことについての鑑定ということでございます。

鈴木(喜)委員
 それではお答えになっていないと思うのです。
 今聞きましたのは、それは捜査上必要がないというふうに人種の問題について判断されたから、人種については調査を依頼しなかったということなんでしょうか、それともしたということなんでしょうか。非常にあいまいだと思いますけれども、ここにまた国民の疑惑が生ずるわけでございますから、明確にお答えをいただきたいと思います。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 人種という具体的な項目での依頼はなかったというふうに理解いたしております。

鈴木(喜)委員
 前回も申し上げましたけれども、人種ということが犯罪の捜査の中に必要がないかどうかということになりますと、これは重大な問題だと思います。警察で調べるときに、やはりこの被害者が何人(なにじん)であったのかということ、または少なくともどういった系統の人であったのかということを調べないという方がおかしいと思うのです。まず、鑑定の依頼書の中から、性別や推定年齢や、また死後の経過年数というものを調べると同時に、人種と出てくるのが当然のことだと思うのですけれども、それをあえて除外したということは、犯罪に関係ないから除外したということでは説明にならないと思うのです。そのことは、犯罪捜査の中、またはそういうことに人種というものが全くかかわりがないということが言えますか。やはり属地主義、属人主義の問題もございます。ですから、そういうことについては調べるのが当然なのに抜かしているということであれば、そこに何らかの警察の意図が働いていたのではないかというふうに思われても仕方がないと思いますけれども、いかがでしょうか。

井口説明員
 お答えいたします。
 御指摘のような意図はございません。

鈴木(喜)委員
 意図はございませんということで信じられるものならこんなところでこういうふうに申し上げて聞くこともないのですけれども、ここについてはもう少し明快なお答えをいただきたいと思います。意図はないからといっても、ではなぜ人種を除いたんですか。その点についてお答えいただきませんと何とも言いようがないのです。そこのところでもう一度お答えください。

井口説明員
 先生、人種について除外したのではないか、こういう御指摘でございますが、人種について除外したということではございませんで、本件人骨からわかる範囲のことすべてについて慎重に鑑定をする、こういう内容の依頼でございました。

鈴木(喜)委員
 またお答えが二転三転と、よくわからないのです。今のでいきますと、人種について除外したわけではないというお答えに今度は変わっているのですね。さっきは人種はやらなかったと。一体どっちなのか、どうしてそう明確に答えが出てこないのか、ますます疑問が深まってしまうのですけれども、この点いかがですか。

井口説明員
 お答え申し上げます。
 人種についてという具体的な項目はなかったと先ほど申し上げましたが、これは人種を除外したということではございませんで、現在の警察の、科学捜査研究所の能力の範囲内でできる限りの鑑定をする、こういう依頼でございました。

鈴木(喜)委員
 その鑑定の依頼書の中に、具体的に人種という言葉がなかったことは明確にわかりました。そして、それは何でもできる限り調べるというようなこともあったのだと口頭で言われましても、一体どうなのか、これはまだまだわからず、これからも究明していかなければならないことだと思います。
 ですから、そのことについて結果を見ましても、鑑定書の中に一言も、人種についてはこのような鑑定が不可能であった、これこれの理由で、例えばもはや古いので鑑定することが不可能であったとか、そういうふうな形での報告というものが一行も見当たらないわけでございます。私もそれを承知しておりますけれども、その点に間違いありませんか。

井口説明員
 鑑定の結果につきましては、先ほど申し上げました鑑定の結果、頭蓋骨二個につきまして性別あるいは年齢等が判明した、それ以外のことはわからなかったことでございまして、推定が可能なものにつきまして鑑定書といいますか、その結果として出された次第でございます。

鈴木(喜)委員
 時間が来ましたのでここでやめなければなりませんけれども、この問題は日本人だけの問題ではなく、アジアの各国またはヨーロッパの国においても取り上げられ、新聞にも報道されて、一体これはどういうことなのかということで非常な関心を持たれている事案でございます。
 その中で、今の警察のそこでの調べ方、検査の仕方、鑑定の依頼の仕方というものは非常に多くの問題を含んでおりまして、また、そういう世界の各国から非常な不信感を持ってとらえられる問題になると思います。また、心情的に言いましても、どこの方だかわからない、その故国で眠りたいと思っておられる方をそこにきちんとした形で葬って眠らせてあげることもできない、葬儀屋さんの段ボールにそのまま骨が入って今も保管されているというような状況は早くなくしてあげたい、そういう思いがいっぱいであるわけですけれども、その中で、警察の方が調べられるときにわざわざ人種を外して調べながら、そしてわからなかった、犯罪に関係がないからこれでおしまいだというような形では、とても国際的な信用は得られないと思います。これからいろいろな究明が続くとは思いますけれども、その点よく御了解いただきまして、これからの調査についても御留意いただきたいと思います。

人骨問題・答弁記録

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